第8章

殺虫剤と健康

殺虫剤は危険?

殺虫剤は生きている昆虫を殺すために使用されるので、昆虫やそれに近い生物体にとっては危険なものです。 各々の殺虫剤の毒性は異なり、そのユニークな化学構造に関連しています。 いくらかの殺虫剤は人に対して非常に有害であるものの、その他のものはそれほど有害ではありません。 ゴキブリ駆除で 家庭用として表示されている殺虫剤のほとんどは、 毒性が低かったり中庸であると考えられるものの、ユーザーや家族、ペットが曝されないように注意を払わなければなりません。ユーザーや家族へのリスクを減らすように 殺虫剤を戦略的に使用することが最善策となります。

リスクを推し量る尺度、すなわちリスク方程式は、:

リスク = 毒性  X 暴露(さらされる)量

として表わされます。

製品の毒性と人が曝される可能性を理解することによりリスクを減らすことができます。 殺虫剤がどれくらい毒性があっても、曝される量が低く維持されれば、リスクを許容できる程度に維持 できます。殺虫剤の毒性は変えることはできませんが、リスクは管理でき、管理者とは使用者である あなたです。

毒性とは?

殺虫剤は、害虫駆除の作用を発揮するものです。その性質からして殺虫剤には毒性があるので、 注意して取り扱わなければなりません。 製品の毒性は、(表2の)表示とラベルに記載されている記号とシンボルを読むことにより分かります。 殺虫剤は、1)口を通して(経口)、2)皮膚あるいは目を通して吸収(経皮)、3)肺に取り込まれ る(吸入)などの3つの方法で体内に取り込まれます。


表2. 殺虫剤の表示と相対的毒性 (C. Ogg 1995)

表示 毒性 経口致死量
(平均的な成人の場合)
危険物/毒物 非常に毒性が高い 数滴から小さじ1杯(5ミリリットル)程度
警告 中等の毒性 小さじ1杯から大さじ1杯 (5−15ミリリットル)
注意 毒性が低い 30ミリリットルから 0.5 リットル以上


「危険物/毒物」表示、すなわちドクロマークは、経口的、経皮的、あるいは吸引により 非常に毒性が高い製品のラベルについています。 ゴキブリ駆除では、ラベルにこのような表示のある製品はわずかしかありません。これらの殺虫剤は、 ひとなめから小さじ1杯(5ミリリットル)程度であっても飲み込まれれば平均的な成人は死亡します。

「警告」表示は、経口、経皮、吸引毒性が中等あるいは眼や皮膚に対する刺激が 中等な製品のラベルに要求される表示です。 小さじ1杯(5ミリリットル)から30ミリリットルを口にすると、平均的な 成人は死亡します。

「注意」表示は、若干毒性のあると思われる製品や経口、経皮、吸引毒性が比較的 低い製品、あるいは若干眼や皮膚に刺激のある製品のラベルに要求されるものです。 これらの殺虫剤の1つを30ミリリットルから 0.5リットル以上取り込むと、平均的な成人は死亡します。 すべてのラベルには、「子供の手の届かないところに保管すること」 という表示がついているはずです。

殺虫剤の相対的毒性

殺虫剤の毒性を比較する他の方法があります。EPAが承認するラベル表示を取得する上で、 殺虫剤メーカーは哺乳類に対する毒性を検査しなければなりません。 人に対する毒性を試験することはできないので、殺虫剤の致死量(LD)を決定するために実験室のネズミを使用 します。

経口急性毒性(LD50)は、経口的に実験室のネズミに投与した場合にその半数が死ぬ純粋な活性物質の 体重あたりのmg数です。 多くの試験結果から、殺虫剤や他の化学物質のLD50 を比較することができます。 LD50 が何を意味するかを理解する上で最初は混乱することがあります。 毒性の高い物質は、LD50 が低くなります。 実験動物を殺すのに少量の物質で十分だからです。 反対に、毒性の高くない化合物の LD50 値は大きくなります。各々の製品の LD50 は、 安全性データシートにある情報の1つです。 残念ながら、化学業界には標準といったものはありません。 安全性データシートのいくつかでは、配合された製品のLD50 が記述されており、また他のものでは 有効成分のLD50 が示されています。

表3および4は、若干の殺虫剤と家庭内によく見られる物質の相対的毒性を比較したものです。 家庭にある最も危険な製品の1つであるアセトン(マニキュア除光液)の LD50 が低いことに 注意してください。LD50 が低いということは、毒性が高いということです。

ガン

世界保健機構(WHO)は、ガンの75−85%が汚染物質、喫煙、食物などの環境に 起因していると推定しています。 多くの人々は、家庭内で使用される化学物質の発ガン性リスクに関心があるのはもっともなことです。 表3および4には発ガン性リスクについては述べられていませんが、発ガン性試験の結果は しばしば安全性データシートで述べられています。安全性データシートは、業務用殺虫剤について は容易に入手できます。 OTC用の殺虫剤の安全性データシートを入手するには、ラベルに表示されている製造メーカーの 消費者情報センターに電話してみてください。


表3.家庭内にある物質の LD50 (mg/kg 体重)。 (The Merck Index, 11th edition, 1989.)

物質 LD50 用途
100%アルコール 10,600 飲料、保存剤
アセトン 10.7 マニキュア除光液
アスピリン 1,000 医薬品、鎮痛剤
カフェイン 355 コーヒー、コーラの成分
エチレングリコール 8,540 不凍液
プロピレングリコール 24,000 - 30,000 不凍液
イブプロフェン 626 医薬品、鎮痛剤
ニコチン 0.3 タバコの成分
食塩 3,750 食品添加剤
ビタミンA 7,910 ビタミン
ワルファリン 323 殺そ剤、抗凝固剤


表4.家庭用の害虫駆除に用いられる殺虫剤の有効成分の LD50、種類、毒性の分類。この表は比較をするためにのみ 掲載しているが、製品のトータル毒性を決定するのは処方が非常に重要 であることに注意してください。使用者に危害を及ぼす要因は、濃度と曝される時間です。 (The Pesticide Book, 3rd edition Ware 1989).

有効成分 経口 LD50 分類 毒性の
分類
d-limonene 無毒性 植物性(柑橘類) 5
diatomaceous earth 無毒性 乾燥剤 5
methoprene 34,000 昆虫成長阻害剤 4
fenoxycarb 10,000 昆虫成長阻害剤 4
hydroprene > 5,100 昆虫成長阻害剤 4
d-phenothrin 10,000 ピレスロイド 4
piperonyl butoxide 7,500 共力剤 4
abamectin, avermectin b1 4,200 天然毒素 4
hydramethylnon > 5,000 アミノヒドラゾン 4
tetramethrin 4,640 ピレスロイド 3
borax 3,000 鉱物 3
resmethrin 2,000 ピレスロイド 3
pyrethrins 1,500 植物性 3
malathion 885 有機リン 3
acephate 886 有機リン 3
allethrin 425 ピレスロイド 3
diazinon 300 有機リン 3
trichlorfon 144 有機リン 3
permethrin 4,000 ピレスロイド 2
cyfluthrin 500 ピレスロイド 2
fenvalerate 451 ピレスロイド 2
cypermethrin 247 ピレスロイド 2
chlorpyrifos 135 有機リン 2
propoxur 95 カルバメート 2
esfenvalerate 75 ピレスロイド 2
bendiocarb 34 カルバメート 2

毒性分類:
5 = 毒性なし; 4 = ほとんど毒性なし; 3 = わずかに毒性あり; 2 = 毒性が中等


殺虫剤中毒が起きた場合には?

殺虫剤の使用中あるいは使用後に普通ではない、あるいは説明のつかない症状が現れたら ただちに医師の診断を仰いでください。殺虫剤による中毒症状は、しばしば風邪と同じような 症状が現れます(頭痛、倦怠、めまい、吐き気、腹痛、下痢)。 中毒を受けたと思われる人は、一人にしないようにしてください。危険な症状が出るくらいまで 医師を呼んだり病院に行くことをためらってはいけません。手遅れになるよりは、注意をしすぎる くらいの方がよいからです。 殺虫剤の容器(あるいはラベル)を医師に示してください。重要なことは、迅速な処置が必要となることです。 曝されてから時間が経過すると、生存の可能性が低くなります。



もし住んでいる地域に共通の緊急電話番号があるならば、ただちに 911番(米国の場合)に電話してください。オマハにある小児記念病院の中毒 センターにつながります。 かれらは、緊急救命者が来るまでに行わなければならない手順について指示してくれるでしょう。 もし、共通の緊急電話番号がない場合、以下の場所に連絡してください。

  1. 中毒センター 1-800-955-9119(米国の場合)
  2. 最寄の病院
  3. 医師

中毒患者の体の殺虫剤に曝された部分を石鹸と大量の水で洗い流すようにしてください。 もしこの処置を施さなければ、連続して曝されることにより皮膚刺激が生じます。 もし衣服が皮膚に吸収されやすい殺虫剤で汚染されていれば、すぐに脱がせてください。

殺虫剤を注意深く使用したとしても、事故は起きるものです。細心の準備をしてください。 ホットラインカード (ネブラスカ大学公開講座 EC-2501から入手できる) を入手し、これを 常に携帯してください。殺虫剤中毒の症状が現れた場合には、躊躇することなく医療機関に 連絡してください。後悔するよりも大事をとることが大切です。

ゴキブリ駆除で使用される殺虫剤のほとんどは、他の用途で使用される殺虫剤よりは 毒性が少なくなっています。したがって、正しく使用すると使用者に問題が生じることはありえ ないはずです。 それでも殺虫剤はすべて安全に使用してください。製品のラベル表示をよく読み、その指示 に従ってください。

常に正しい服装をすること!

殺虫剤へ曝されることを最小限にすることが、殺虫剤中毒のリスクを削減する重要な第一ステップ となります。 必要となる防具は、取り扱う殺虫剤の毒性と処方(液剤、水和剤など)に左右されます。 ラベル表示には、衣服、器具、防護メガネ、防護靴、防護手袋などを使用しなければならないことが 明記されているものがあります。また他の製品ではそのような表記はありません。通常、殺虫剤の毒性が 高ければ高いほど、防護器具をする必要性が増してきます。

どの防護器具が適切か?

ほとんどのゴキブリ駆除剤には特別な防護具は必要ではありませんが、常識的な注意を払わなければいけません。 液剤は、しばしば乾燥処方に比べて有害であり、これらの殺虫剤を混合・充填する場合には 特別の防護が必要となります。 スプレーに長時間曝される場合、あるいは屋内で使用する場合、特別の防護が必要です。

防護服:  殺虫剤を使用する場合、腕や足を完全に覆うことのできる長袖のシャツと長ズボン、あるいは カバーオール(織られた生地のもの)を着用してください。 木綿/ポリエステル混紡よりは、木綿の衣服を選んでください。靴や靴下も着用してください。 足が液剤に触れるのを最小限にするためサンダル、草履、布あるいはキャンバス地の靴は避けてください。 ほとんどの殺虫剤を使用する上で革靴は最適です。

頭、目、手の防御:  特に頭上で殺虫剤を使用する場合、頭の防御を行ってください。 通常、首、目、口、顔に殺虫剤がかからないようなつばの広い帽子をかぶれば十分です。。殺虫剤を吸収するので、布、あるいはレザーバンドのある帽子は避けてください。 野球帽は、殺虫剤を吸収し、保持するヘッドバンドがついています。

殺虫剤は、目から容易に吸収され、目に障害を与えます。 ラベルにそのような表示がある場合、防護メガネあるいはフェイスシールドを使用してください。 殺虫剤を混合、充填、使用する場合、防護手袋がしばしば必要となります。 裏打ちされていない、液体に耐性のあるネオプレン、ブチル、PVCあるいは二トリル製で、 上腕までカバーする防護手袋が最適です。 裏地が化学物質を吸収し、また洗濯しにくいので、裏地の入った手袋は避けてください。 病院でよく使用されているラテックス製の手袋では十分な防護をすることはできません。 殺虫剤を吸収することがあるので、木綿や革の手袋は避けてください。 多くの場合、殺虫剤がシャツから流れて手袋内に入らないよう、手袋はシャツの袖の下に つけてください。 頭上で作業する場合、殺虫剤が手袋を通って前腕につかないようにするため手袋の端をまくってください。

肺の防護:  肺や呼吸器系は、容易に殺虫剤のダストや蒸気を吸収します。 したがってラベルにその旨の表示がある場合、呼吸器を防護することが必要です。 ラベルにその旨の指示がなくても、殺虫剤を混合・充填する場合に呼吸器を防護することが 必要です。 ゴキブリ駆除剤のように、間歇的に曝される場合、カートリッジ製の防護マスクが最適です。

殺虫剤を使用するときに用いる防護マスクは、NIOSHやMSHAにより承認されたものを選んで ください。防護マスクの使用や手入れ方法については、製造メーカーの取扱い手順をよく読み、 それに従ってください。 フィルター、カートリッジ、キャ二スターは、殺虫剤用に承認されたものでなければならならず (有機性蒸気を取り除き、トラップするように設計されているもの)、 適切な使用間隔で交換しなければなりません。 防護マスクは使用前に点検、検査し、顔にしっかりとフィットすることを確認してください。 マスクの表面は、使用後きれいにし、カートリッジを気密性の容器に保管してください。

防護服

殺虫剤を取り扱う上で、毎日清潔な服を着用してください。 できれば殺虫剤用の衣服を1セット予備に持っておいてください。 殺虫剤に汚染された衣服は、別にして洗濯、保管してください。 殺虫剤で湿った衣服は、直ちに脱いでください。 迅速に対応することが殺虫剤へ曝されることを少なくします。 濃厚な殺虫剤で汚染された衣服(靴やブーツを含む)は廃棄してください。 水や化学品に耐性のある帽子、手袋、ブーツ、メガネを毎日洗濯し、乾燥させてください。 水を満たし、ゆっくりと押し出しながら手袋の漏れがないかを検査してください。

体を洗う: 

まず清潔にすることが必須です。殺虫剤汚染に対して、石鹸と水が安価な保険となるはずです。 殺虫剤の取り扱い中は、手や顔を頻繁に洗ってください。 殺虫剤の使用後、手を洗わずに喫煙、飲食したり、トイレを使わないでください。 殺虫剤の使用後、清潔な衣服に着替える前にシャワーを浴びてください。

取扱い、保管、処分方法: 

殺虫剤は、害虫駆除の貴重な道具ですが、他のどのような道具とも同じように 慎重に、責任を持って取り扱わなければなりません。 殺虫剤を適切に取り扱う上で、ラベルをよく読んでください。

適切な手順を行ったとしても、殺虫剤がこぼれることがあります。 殺虫剤がこぼれた場合にどのようなことを行ったらよいかを予め知っていると、迅速に、正しく 対応することができます。 まずこぼれた箇所をきれいにし、ラベルの除毒指示を読んでください。 殺虫剤がこぼれたところを処理する時は、防護服を着用し、作業終了後器具や衣類をきれいにする ことを忘れないでください。

殺虫剤が届くと同時に、子供の手の届かないように鍵のかかるキャビネットに入れて保管してください。 殺虫剤をガレージ、地下室、あるいは家庭内の鍵のかからない場所で保管してはいけません。 正しい保管法についてのラベル指示を読んでください。

殺虫剤の容器を正しく洗浄することにより、土壌、表面、地下水の汚染の可能性が低くなります。 汚染が起きると、植物や動物が被害を受け、給水の水質にも影響があります。 環境汚染を防止することが最も安くつきます。

空になった液剤の容器をラベルの指示に従って処分する場合、正しく洗浄し てください。 液剤あるいは水和剤が入っていたプラスチック製、金属製、ガラス製の容器を3回 洗浄することをお勧めします。 空になったエアゾール、ベイト剤あるいは粉剤を正しく処分するには、ラベルの指示に従ってください。

覚えておくこと


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Pesticide Education Resources @ University of Nebraska-Lincoln